英語の中で一番難しい文法を探したら、「the」の使い方だろう。基本の基本でもあることは、皮肉とも言えるし、残虐とも言えるが、事実はそうだから、英語を勉強しようとしたら、頑張るしかない。英語を勉強したことがある日本人が「the」を完璧に使えるようになることは無理だと思い込むことは多いだろうが、そうではないと私が思う。ただ、時間がかかる。この投稿で完璧になる筈はない。(まぁ、もう長く勉強したことがあったら、この投稿から最後の必要なヒントをとることができるかもしれないが、その場合これを読む前の努力で完璧になったと言った方がいい。)
先ず最初に、固有名詞と一緒に「the」を使うべきかどうかは、規則はないと言える。大洋や海の名前と一緒に「the」を使うが、湖の名前と一緒に「the」を使わない。川と一緒に使う。山と一緒に使わないが、連峰と一緒に使う。砂漠と一緒に使うのが普通だが、沼と一緒に使わない場合もある。そして、英語で「the Eiffel Tower」だが、「Tokyo Tower」(「the」を使わない)だ。考えに考えたが、規則はないと結論した。幸いネイティブも知らない固有名詞で「the」の使い方を間違える場合もあるので、ネイティブ並みになる為に、完璧になる必要はないのだ。
「the」についての説明で、よく「一つだけがある」とか「話し手も聞き手も名詞の特定された意味が分かる」などと言われる。大雑把に言えば、当たる場合は多いが、根本的に間違っているので、例外が生じる。その例外に合う学生が戸惑って、「一体なんでここで「the」が使われるのか」と考えて、絶望してしまう。そして、ルールを四つか、十か、百か、暗記して、いつでも「the」が使えるようになるように頑張ることもあるが、それも結局失敗に終わる筈だ。文章の構造上のルールは存在しない。「The man read the book」、「A man read the book」、「The man read a book」、「A man read a book」は、すべて文法的に正しい。
要するに「the」を正しく使う為に文脈を全面的に考える必要があるし、文章の目的も考える必要がある。そして、原則は次の通りだと思う。
「the」の使い方の原則:名詞は、文章の前提としてその名詞が登場する文章の内容を含む文脈で特定されたら、「the」を使うべきだ。
これから、よく提案されるルールが発生する。
例えば、一つだけがあれば、特定される場合は多いので、それが文章の前提になることも多いと想像し難くない。だから、一つだけがあれば、「the」を使うことも多い。ただ、必ずしもそうではない。一方、次の文章は正しいのだ。「Mt Fuji is a mountain that symbolises Japan.」固有名詞が入っているのに、「the」は使わない。それに、日本を象徴する山も、富士山しかない。それに、「Mt Fuji is the mountain that symbolises Japan.」も使えるが、意味が違う。理由は、前者の例文で、一つの日本を象徴する山しかないというのは、前提ではないからだ。他方、「The dog bit the other dog.」も正しい。犬は二頭いるが、文脈からどちらが「the dog」、どちらが「the other dog」が分かることだ。
そして、話し手も聞き手も特定されたことが分かる場合は多い。文章の前提だから、前提を満たさないと意味がちゃんと伝わない。だが、小説や演説で、満たさない前提をわざと置いて、聞き手の興味を惹くこともある。例えば「The road was heavy with mud.」との文章は、D.H. Lawrenceの『A Modern Lover』という短編小説の冒頭に立つ。読者がどこの道路を指すか分かる筈はない。主人公が通る道路だろう。それとも、重要な場所に繋がる道路だとう。分かる筈なことが分からないので、続きを読もうとの気分も、人の会話を途中から聞き始めたかのような気持ちも起こすので読者には読みたい気分を作る。言葉遣いの間違いではない。むしろ、「the」の意味を上手く使って、興味のある文章を作ることだ。
もう一つのルールを見よう。名詞の後で「that」が続けば、「the」を使うべきだとも言われる。それは、「that」で始まる言葉が「that」の前に立つ名詞を特定することが多いからだ。例えば、「The book that I wrote」と言える。しかし、私のように複数の本を著した人であれば、「a book that I wrote」ということもできる。間違いではない。この場合、「that I wrote」が特定しないので、「the」を使わない方がいい。一方、より広い文脈から考えて、私が著した本の内から一つが話題になったら、「This is the book that I wrote.」と言える。例えば、「While I was studying at Japanese language school, I wrote a book. This is the book that I wrote.」と言える。
また、「most」のような「最も」と言う意味を持つ形容詞と一緒に、「the」を使わなければならないとよく言われる。これも正解ではない。「He is a most polite young man」という表現がよく使われる。意味は「大変礼儀正しい少年だ」ということで、「most」の特別な言葉遣いだ。だから、特定しない。その結果、「the」も使わない。「the」の使い方はごく普通だ。
さて、「前提として」の役割を考えよう。次の文章は英語的に間違いではない。「Japan is a country ruled by the Yamato Emperors, who rule only Japan.」日本は充分特定されていつだろう。そして、大和朝廷が複数ある筈はない。「the」は使われているので、特定されたことが分かる。それに、大和朝廷が統治する国は一つしかないことも、文章で明記された。だが、日本は大和朝廷に統治されることは、文章の前提ではない。むしろ、文章の主旨だ。この文章で、皇室論的な内容を紹介すると予想する。例えば、「Japan is a country ruled by the Yamato Emperors, who rule only Japan. Therefore, Japan can never rest easy under foreign dominion.」(続きの文章は、「だから、日本が外国の占領の下で安泰になることはない」という意味だ。主な例文は、当然、翻訳できない。)この文脈で、「Japan is the country ruled by the Yamato Emperors, who rule only Japan. Therefore, Japan can never rest easy under foreign dominion.」と書いたら、不自然だ。「”だから”って、何?」という気分になる。日本を指しただけだから、外国勢力に服従しないこととどういう関係なのだろう。
なぜ「the」が使いにくいか、もう分かっただろう。文章の文法だけではなく、周りの文章の内容だけでもなく、作者の前提だけでもなく、作者の目的まで考える必要があるからだ。高校や文法の教科書で学ぶルールは、普段に当たるが、本当の原則ではないので、本当の原則が別な方向に導けば、ルールが間違いに終わってしまう。
冒頭に述べた通り、「the」の使い方は英語の中で最難関だと思うので、説明することさえ難しいのだ。だから、不明な点があれば、コメントで聞いてもかまわない。英語の教師としても働いているし。なお、他のルールの例外を今まで見つけてきたが、この原則はまだ完璧ではない可能性もある。保証することは、一般の説より事実に近いことに過ぎない。例外が思い浮かんできたら、ぜひ教えてください。原則の表現を錬磨する。
追伸:後日にこの投稿を補足した。「the」と文章の前提もぜひご覧ください。
コメント
“「the」の使い方” への2件のフィードバック
私の最初の混乱は【post office】でした。周囲に複数郵便局があってどれに行くのか不確定であっても【I go the post office】みたいに【the】を使うよ、大昔は郵便局なんて身の周りには1軒しかなかった、その影響だね、って言われた時に、完全にマスタなんてしなくても大丈夫だろう、と自分を慰めました。
@Ayukata様
コメントをありがとうございます。実は、ここで「the」を使う理由がちょっと異なると思います。「The post office」という表現は、もともと郵便局の店舗より、郵政機関を指しましたので、どちらの局に行っても、同じ「the post office」に行くことになります。とは言え、個別に局を指すこともあるようになりました。例えば、「the post office on the corner」。その結果、「I’m going to the post office.」「Which one?」のような会話は、不自然どころか、よくあることだと言えます。
つまり、「the」の原則の本質の結果は、「the」を正しく使う為に言葉の使い方も完全に理解する必要があることです。ですから、「the」をマスタすることを英語の勉強の目標として選んでは行けません。それは、英語を完全にマスタすることと等しいからです。