『日本人なら知っておきたい 神道』

この本はまた武光誠氏が著した神道の入門書だ。それだけではない。これは、私の神道入門だ。数年前に、神道に興味を持ち始めた時にこの本を入手して、神道について勉強した。だから、数年間の積んだ経験や勉強を踏まえて、もう一回読み返すのは興味深い。初めて聞いた話には意外な影響力があるので、ここで私の神道の観念のルーツが探れるだろう。

この本も、武光氏が著した他の神道入門と相違点は多いものの、基本概念は同じだ。この本を一括りで表すことは難しいが、詳しい説明がいっぱいで、情報は豊富だ。だから、載っていない内容が特に気になる。それは、記紀神話の話だ。他の話題の中で触れることがあるとは言え、体系的に神話の内容を紹介することはない。その理由は、古代の神道の形を重視しないからだと推測すれば、そうではない。むしろ、古代の神道の要素、特に縄文時代の神道の要素を大変重視する。謎を解く糸口として、神道の歴史の章を見よう。歴史を取り扱う章は二つあるが、一つが他の宗教(特に仏教)の神道への影響を語って、もう一つが顕著に政治的な立場から神道の歴史を語る。要するに、権力者がどうやって神道を使おうとしたか、神道にどれほどの影響を与えたか、などの立場から歴史を論じる。その中、天皇家が神道を使って、集権を狙ったという。その目標の為に、記紀神話を編纂させたという。これから理由を推測できるだろう。記紀神話は、意図的に編纂された神話として、神道の本質を全面的に表現するとは言えないが、部分的に抽出すれば、重要なポイントに光を差すことはできると思ったからだろう。そして、天皇を神道の中枢に据えないのは言うまでもない。ところで、この本で自然崇拝を神道の基盤として、かなり重視する。

一方、本の三分の一が神社の設備や神職、お参りの作法、人生祭祀を詳しく紹介する。普通のお参りだけではなく、玉串の捧げ方も説明するし、それに祓え詞の全文をルビ付きで載せる。神社の設備の起源と意味がいちいち紹介されるし、神殿の建築や鳥居の形式も図で紹介する。神職の装束もイラストで紹介されるし、神職になる為の道筋も説明される。この三分の一は、特定された神社に拘らず、実に神社にお参りすれば見ることが分かるような形だ。前に紹介した『図説 日本の神々を知る 神道』と違って、祈願の内容に詳しくないが、神社へ行く動機があれば何をすればいいか分かるので安心でお参りできる。

もう一つ気になる点にちょっと触れたいと思う。それは、この本の中に「縄文時代の神道」がよく取り扱われることだ。私の解釈は、縄文時代には神道というべき宗教はなかったと言うことだが、その理由は、現在の神道との共通点は少なすぎたからだ。もちろん、影響があったと思えるし、直接な流れになった可能性も高い。だが、弥生時代の荒神谷遺跡の銅剣は、祭祀の為に作られたことはほぼ確実だと認めても、「神道」の祭祀に使われたとは言いたくない。四世紀か五世紀に入ったら、宗教を「神道」と呼ぶべきだと思う。だが、弥生時代の祭祀を「神道」と呼んでも、根拠はなくはない。出雲地方で直接な繫がりが推測されるし、祭祀の形も或る程度想像できるからだ。一方、縄文時代の祭祀についての知識は薄すぎると思わざるを得ない。石の並び方や偶像と看做された出土品が宗教の内容を再現するための基盤になれない。だから、本当に「縄文時代の神道」について語らないほうがいいと思ってきた。神道は古いが、武光氏が明記にする通り、神道が時代と共に変わるので、遠く遡ったら、もう「神道」と言えなくなる。

より知識がある立場からこの本を読み返しても、内容は悪くないと思ってきたので、私の神道への入門としていい出会いだったといえよう。


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