『神話のおへそ』という本は、神社検定の公式テキスト②だ。最近読んで紹介する本のタイトルは分かりやすいので、この本で日本神話が紹介されることは想像に難くないだろう。でも、本の構造は面白いし、注目を引いた点もあるので、ちょっと詳しく説明する。
本の背骨と言える内容は、古事記に沿って日本の神話を語ることだ。古事記の現代語訳というより、神話の内容を超訳したと言った方がいいだろう。つまり、言葉遣いや表現より神話の内容を重視する示し方だ。神話に添えた注釈もある。この注釈は、神話が世界のほかの神話と類似する点を指摘するところもあるし、神話の粗筋を主張するところもあるし、日本書紀などで記載される内容と比較するところもある。神様の名前の由来や意味を説明するところもあるし、神話の構成を図化する。この図が検定の問題の素になるのではないかと思った。
神話の語りが古事記に沿うとは言え、伊勢の神宮の創祀への経緯などの古事記に詳しく取り上げられないところは、日本書紀や風土記から引用して紹介するので、日本神話全般を紹介しようとすると言えよう。先ずは、天地開闢から神武天皇の即位までの流れを体系的に語る。そして、それからの逸話を選んで、大神神社や伊勢の神宮にまつわる話を紹介したり、日本武尊の話も詳しく語られる。後半に注釈が話の粗筋に過ぎないところが多くなったような気がしたが、作者の専門分野からちょっと離れてきたからだろう。
神話の紹介に交えるのは、『皇室』という雑誌から転載された現地ルポだ。つまり、記者が神話に登場する場所を訪れ、神話と関わる神社に参拝して、祭りに参列することを記事で紹介する。写真も掲載されるので、面白い部分だ。もともとこの本に載せる為に書いたわけはないので、神話の粗筋を含めるところがあるので、本の内容が冠る。ちょっと問題として感じたところもあったが、一概に批判できない。なぜなら、神話を別な立場から紹介してもらったら、習得しやすくなるからだ。詳細が紛らわしくなるケースがあるとしても、それでも大胆の流れがより堅固になるのではないか。それに、神宮が伊勢に鎮座するまでの経緯で『古事記』でも『日本書紀』でもなくて、『倭姫命世記』という書籍による。これは、鎌倉時代に伊勢神道で著された書物で、正当性が認められるのは珍しい。
神話のところ以外、このルポは興味深い。現地に行って、神話の関わる神社の宮司の話を聞いた記者の説明で知る神社や祭祀は、周知の祭りもあれば、初耳だった祭りもある。そして、宮司の意見や立場も様々だった。話し方から推測すれば神話を歴史書として考える宮司もいるが、明らかに神話は事実の話ではないと明言する宮司もある。祭りも、多様多彩だから、神道の豊富さを改めて感じた。一度参拝してみたい神社は多かった。特に最後の方に紹介された丹後半島の天橋立に近く鎮座する豊受大神の元来の鎮座地の元伊勢籠神社に参拝したいと思う。川崎市から遠いので、機会を待つしかないけれども。
最後に著者の一人の國學院大學の茂木教授が日本神話の世界の中の位置について語る。先生が述べるのは、纏まった神話自体は珍しいが、太古に纏められた神話は特に珍しいという。それは確かにそうだ。ギリシャの神話は、日本の神話より1500年も前に纏められたが、ギリシャ神話の神はもう過去の神で、もう現在のギリシャの生活とは無関係だ。一方、日本の神話で登場する神様は、まだ日本人の生活と密着な関係を持つと先生がさらに述べる。ルポで紹介された神社や祭りがその証拠にもなる。これも確かだ。日本の神話は、世界中特に古いかというと、そうではない。そして、まだ生きている神話は、日本の神話だけかと聞いても、そうでもない。しかし、生きている神話は数少ない。ユダヤ人の神話は紀元前から現在まで続いてきて、特に古い例であるし、インドのヒンデュ教の神話も古くて、今も生きている。仏教の神話は紀元前からあるものだし、キリスト教の神話も2000年前にまとめられた。しかし、イスラム教の神話と言えば、日本の神話とほぼ同時に纏められ、今日まで受け継がれた。だから、日本の神話は唯一の存在ではないが、類似する物は少ない重要な存在であることは確かだ。
もう一つ重要なポイントがあった。茂木先生は、神話の大半は歴史上の事実ではないと明記する。古代の人の考え方を把握するためには役に立つし、日本の伝統的な精神を垣間みるためにも貴重だが、実にあったことではない。前に触れた通り、ある神社の宮司も同じことを言った。一方、イスラム教の神話を事実ではないとイスラム教徒は言わないだろう。キリスト教徒がキリスト教の神話を疑えば、話題になりがちだ。冷静に「神話は神話だ。歴史とは別だ」と認めることは、神道のもう一つの利点だと思う。少なくとも、私は神話を歴史として認めることはできないので、その必要はないからこそ神道を信奉することができる。
この本は、公式テキスト①の『神社のいろは』と違って、検定を受けない人にはすぐに勧めない。神話を知る為に、『古事記』や『日本書紀』などの注釈付きの現代語訳を読んだ方がいいのではないかと思うからだ。しかし、神話の考え直したくなったら、この本がいい機会になると思うので、勧める。そして、検定を受検するつもりがあれば、もちろんお勧めだ。ただし、今年の検定は間もなくだ。速読しないと間に合わない。