結論を先に載せれば、『プレステップ 神道学』は素晴らしい入門書だと思う。これから、入門書について聞かれたら、この本を薦めることは多いだろう。ただぼんやりに「神道の入門書を読みたいな」と思えば、この本だ。特定された目標があっても、この本が相応しい可能性は高いが、神道を学ぶ目的は定まったら、他の本がより合う可能性もある。なぜなら、この本には当然独特のアプローチがあるからだ。大学でテキストとして使用される為に著されたので、一般的な基礎の理解以外なことを目指したら、この本は役に立つものの、最適ではない可能性がある。しかし、目標は何であれ、いつかこの基盤を敷くべきだから、この本を後で読むことはまだ勧める。
さて、内容を詳しく紹介しよう。先ず、著者は國學院大學の神道文化学部の教授達だ。知識は豊富で正統的であるはずだ。そして、私が國學院大學のオーペンカレッジで講義をたくさん受講したので、私の神道観念が國學院大學の教授達のご意見からもうかなりの影響を受けたと思う。そう考えたら、私の評価はちょっと客観的ではないとも言えるだろうが、本の帯に書いてある通り、これは「最も信頼できる」神道の入門書だと私も思う。神社界に信頼される方から学ぶのは一番いいだろう。
本の構造を一括すれば、それは珍しくない。前書きのような一章のあとで、本は三部に分かれる。第一部は、神道の古典、つまり記紀神話や風土記などの紹介だ。神話の話の粗筋が書いてあるし、重要なポイントは取り上げられる。第二部は、古代から現代までの神道の歴史を語る。そして、第三部で、神道の祭り、つまり神道の実践を紹介する。順番は本によって異なるが、この内容は典型的だ。なぜなら、神道の主な内容がこの三つの範疇に入るからだ。この三つを網羅しなければ、神道の重要な点の漏れるはずだ。
では、この本の特徴は何だろう。複数あるので、列挙する。
前述の通り、主な対象層は大学生だと思ってもいい。その結果、章毎に「何を学ぶか」と「何を学んだか」の道標があるし、「課題」という宿題の指導もある。重要なポイントが忘れられないように気を配っている。そして、「この章のおすすめ本」のところもあって、より深く勉強したい人のための文献が紹介されるし、何に役に立つかも説明される。このところは、私に役に立ちそうだ。読むべきであるのが分かった内容について、何を読めばいいかが説明されるので、これから活かすつもりだ。要するに、本当の意味での「入門書」だ。この本で門に入って、それから進む道も見せてもらう。
そして、内容は格別だ。章毎に著者が異なるので、その章の著者はその章の課題の専門家だと思われる。記紀神話の粗筋になる章は、内容は他の本と大きく違わないが、例えば記紀神話以外の古典についての章を見たら、著者の知識の深さが明らかになる。それに、歴史の章で最近の考古学の成果などを上手く活かして神道の形を見せる。例えば、古代の章が冒頭で「神道が縄文時代の宗教と単純につながらないし、弥生時代の宗教との関係する点もあるが、古墳時代から奈良時代まで現在の神道の要素が多く整った」と堂々と述べる。私もそう思うが、私の根拠はこの章を著した笹生先生等の講義だ。(さすがにこの本でも、「伊勢の神宮は2000年前から存在していない」と明記しない。示唆するけれども。神道の神社や聖地などが古墳時代から始まったら、伊勢の神宮の歴史も4世紀より遡らないわけだ。)
祭祀の作法の章も、同じように詳しく書かれ、それに作法の意味も経緯も説明される。私は、神職向けの作法の本を読んだことがあるので、それから重要な点をピックアップして書かれたのが分かるが、普通の入門書より詳しい。それに、信頼できる内容だ。著者は、実は國學院大學の神職の養成講座で祭祀作法を担当する方だ。つまり、神職が作法について質問を持ったら、この方に尋ねるわけだ。作法全体がよく分かるので、重要点は何であることも正しく判断できる。同じ傾向は、作法ではなく、祭り一般についての章でも見える。普通の祭りだけではなく、特殊神事というある神社の独特の祭りの紹介も、そして社会学の立場からの検討も入っている。祭りの祭具の章の神職の装束の説明で、女性の神職の旧型の装束の写真も載っているが、初めて見た。装束の歴史も説明されるので、現在の装束は戦後の物であることは明らかだが、平安時代のルーツも見える。本の最後の一章は、神道学に近い分野を紹介して、民俗学などの立場を紹介する。これも、入門の役割を果たすと言える。神道を本格的に検討する為に、他の立場からも見なければならないからだ。
この二つの点が強い推薦になると思うが、まだある。ページの下欄には、「神道名言」が載っている。これは、古典から二十世紀までの神道人の言葉で、当時の言葉も現代語訳かつ解釈もあるので、分かりやすい。神道を短い文で伝えたい場合、この表現が役に立つと思うし、神道の歴史を実感させる。私は、暗記するかと思うが、50位あるので、それに時間がかかるし、大祓詞はまだ暗記していないので、もう少し後でするかと思う。
私にとって新しい内容は少なかったが、私はもう入門書のレベルではない。もう評価することさえが難しくなりつつあるとも言える。つまり、知識のない人は何を知りたいかが分からなくなった。それでも、この本を読めば、貴重な知識を多く得るし、自分で進める道も与えてもらう。この本のような英語の神道の入門書が欲しいので、この本が英語に翻訳されて出版されたらいいと思う。つまり、この本を神道の最高の入門書として強く薦める。