『神社のいろは 続』

この本は、神社検定弐級の公式テキストの一つだ。内容の大半は神道の歴史だが、第2章で神社を20ヶ所を紹介する。検定のテキストだから、検定の合格を目指せば必読だが、一般的に神道の歴史書としてどうだろう。

結論から言うと、よくできた本だ。神社本庁が監修したので、びっくりするほどではないだろうが、神社本庁が保守的で、最新の研究成果を認めないとの評判(噂)もある。この本を読む限り、そうではないようだ。

まず、古代史を見れば、神道が縄文時代へ遡る証拠はないことは潔く認められるし、神道は古墳時代から発生して、律令国家で成立した解釈を披露する。(私の個人的な解釈は、神道が5世紀に成立したことだが、これは解釈の違いにとどまる。証拠や出来事について、この本と同じ意見だ。それは、この本を参考文献から私も神道の歴史を学んだからだろう。)その上、神武天皇は実存した人物ではないのは明らかに示唆される。(「明らかに示唆される」という矛盾的な言い方は、明記されていないが、神武天皇の伝統的な時代には神道も大和朝廷も存在していなかったことは明記されているという状況を指す。)その上、崇神天皇は少なくとも伝統的な時代より数百年遅れて即位したことは明記される。崇神天皇は3、4世紀以降の存在であると認めたら、伊勢の神宮の建立は2000年前ではないことも認めなければならないので、重要な点だ。『神社新報』を読めば、現在の歴史学に背く点は、主に神武天皇と伊勢の神宮の建立なので、この検定を通じてより現実的な見解が神社界に広がるだろう。

そして、平安時代以降の歴史で、仏教や道教、陰陽道などの影響は認められるだけではない、説明される。これは、神道の歪みや劣化ではなく、ただの展開として描かれる。明治以降の神道策についても、評価する点にとどまらず、問題点も指摘される。この本を読めば、明治維新で神武天皇の時代の純粋で優れた神道が復活させられたとは思えないだろう。このテキストは、一般に普及しようとする検定に使われるし、この検定の明記された目的は「神道についての正しい知識の普及」だから、神社本庁は、この歴史的な見解を正しいと思うようだ。それは評価できる。

もちろん、神社本庁らしい要素も見える。例えば、どの時代でも神道と仏教ははっきり区別されたことは主張される。私の見解は、いつの時代でも区別できる流れや施設があるが、境を定めるのは困難である時代もあることだ。特に平安時代末期なら、一線を画すのは無理に近いだろう。仏教の儀式が多くの神社に行われたが、密教には神道の影響も大変強かったようだ。修験道は、明治時代になっても、神道か仏教かは言いにくいので、平安時代末期にはさらに難しかった。神道の流れは仏教の伝来の前から絶えずに現代まで続くのは疑えないが、当時の人が仏教と神道を区別しなかった時代もあっただろう。

唯一の明らかな欠点は、戦後の歴史に触れないことだ。神社本庁の設立と昭和28年の第59回神宮式年遷宮を一ページで挙げて、終わる。確かに戦後の神道の歴史を作った人はまだ生きているが、もう70年間弱だから、無視するべきではない。仮説として、神社本庁内でも、戦後の歴史の解釈についての論争が続くので、一般の人に「正しい歴史」を教えることはできないだろう。

それにしても、この本は神道の歴史の入門書としてよくできたと思う。唯一のよい候補ではないが、手軽な値段で簡単に入手できる選択肢として薦める。

ところで、神社の紹介も入っている。この第二章で、神社毎に一ページと写真があるので、詳しくないが、全国の重要な神社だから、紹介してもらえば勉強になる。『神社のいろは』で全国的に広がっている神社を中心に紹介されるが、この本で歴史的に重要であった孤立の神社が大きな割合を占める。例えば、大神神社と石上神宮はここで紹介される。広く勧請されていないので、前巻には相応しくないが、神道の歴史上極めて重要な神社だから、ここで紹介するのは適切だと言えよう。歴史の第一章には二十二社制度が紹介されているが、この本と去年の『神社のいろは』を合わせたら、二十二社の殆どは紹介される。

もちろん、ちょっと疑問を抱くところもある。『神社のいろは』で松尾大社が紹介された理由は明確ではないとその本についての投稿で言ったが、今回は水無瀬神宮はそうだ。この本には松尾大社が載っていれば全く不思議ではないが、水無瀬神宮は特に歴史のある神社ではないし、他の本で重視されていない。皇室との関係は確かに密接だから、その観点から取り入れられたのではないかと思う。私が編集者であれば、水無瀬神宮の代わりに九州の天孫降臨ゆかりの神社を紹介しただろう。とはいえ、まだ重要な神社なので、紹介してもらっても問題にならない。この本で重要な神社について分かってくることは確実だ。

この本を去年出版された公式テキストと合わせたら、神道の基礎的な知識は得られるので、薦める。検定を受けるつもりはなくても、現在の神道の主流を理解したかったら、最適な数冊になるだろう。


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