お白石を載った車を宇治橋まで曵いたら、神域に納める行事に進んだ。この時点で家族と合流して、私の法被も真由喜の法被も羽織った。ゆり子はたすきをしたが、これも地元の人のようだった。その姿で参加する人は少なくなかった。
宇治橋を渡って、内宮の御正殿に進んだ。宮後のお白石持行事には2000人程度が参加するそうだが、確かに人は多かった。それでも、静かに、礼儀正しく石を白いハンカチなどの布に包んで、神殿へ進んだ。小さい子供から高齢者まで、20年に一回しか体験できないことに大勢の人がいた。
真由喜は積極的だった。
「これは神様のための石?」
「そうです。大事にしてね。」
だっこを求めずに、石を持って前へ進んだ。
式年遷宮の立て替えで、旧神殿を壊す前に新しい神殿を建てる。それを可能にするために、敷地は二つ並ぶ。だから、この時期に限って新しい神殿と旧神殿を同時に見えることはできる。そして、もう一つの特権がある。神宮の正殿は、四枚の垣に囲まれる。普段の一般参拝で、一番外の板垣の中に入って参拝する。特別参拝を行えば、次の外玉垣の中にも入れるが、それより家へ行けない。正殿は内玉垣と瑞垣の向こうなので、よく見えない。しかし、お白石持行事で、20年に一回一般の人は瑞垣の中に入ることは許される。正殿の周りに石を納める。遷宮の遷御という祭祀で神様が旧神殿から新神殿へお遷りになる前だから、まだ神殿には神様はいない。だからこそ進入は許される。
つまり、新築の正殿を間近に見える。写真を見たことがあるが、実物は立派で、印象は強かった。ヒノキも茅葺きも輝いたし、欄の上の据玉の色も鮮やかだった。
「大きいね」と真由喜。
「そうだ。それは、神様の新しい家だよ。10月にお引っ越しになる。」
「あれは?」
正殿の後ろには、二つの倉庫が建つ。
「それは神様の宝物のためだ。」
「大きな建物は、神様の新しい家になるね。すごいね。」
私も感動した。また見えるのは、20年先だ。