万世一系
皇室についてよく使われている表現だ。しかし、意味は何だろう。「万」はもちろん文字通りの10,000世代の意味ではない。神話の天皇を全て認めても、125にしか上がらない。日向三代、おしほみみのみこと、そして天照大神を含めても、130だ。八百万の神の表現のように「多い」という意味だが、それより最初から日本の天皇は一系になるという意味をさすように捉えられるような気がする。
では、それはどういう意味だろう。歴代天皇の半分程度は今上天皇のご先祖様に当たる。そして、少なくとも二回、皇室の系が変わったと言いたい出来事があった。
まずは、飛鳥時代末から奈良時代のことだ。天武天皇の子孫が称徳天皇まで続いたが、その後で天智天皇の子孫に皇位が戻った。聖武天皇を天智天皇系として捉えるために、女系天皇を認めなければならない(聖武天皇の母も祖母も天智天皇の娘だったし、天皇だった)。その上、神社本庁が神社検定の公式テキストとして認定した『神社のいろは 続』でも、「長く続いて天武天皇系の皇統に代わって天智天皇系の皇統が皇位に就かれる」と明記されている。
次は、室町時代の南北朝とその直前だ。南北朝の直前、持明院統と大覚寺統が二つの皇統として、皇位に代替わりで就かれた。そして、南北朝になったら、現在政党の天皇として認められ数えられているのは南朝だが、血統から見れば現在の皇室は北朝の子孫である。南朝の後亀山天皇が北朝の後小松天皇に譲位したからだ。つまり、南北朝時代の認められている天皇は、今上天皇と別の皇統である。
男系の天皇であれば良いと言ったら、足利義満が天皇になっても良いということだ。なぜなら、足利家は源氏から発生したが、源氏は皇室から発生したからだ。つまり、長い間皇位に就かれていなかったが、皇統の一つであると言える。(いったん人民になったら、天皇になれないと強調すれば、皇統があいにく1000年以上前に終わったことになる。なぜならば、醍醐天皇は臣籍に生まれたからだ。醍醐天皇以下の歴代天皇は醍醐天皇の子孫に当たる。)
そして、仮に万が一のことを考えよう。信憑性が高い資料が見つけられたとしよう。この資料で、藤原道長が深刻な罪を犯したことが明らかになる。自分の娘であるにも関わらず、皇后に子供を設けたことは判明だれた。つまり、後朱雀天皇は実は藤原道長の息子だったことだ。(そうではないと思うが、源氏物語で浮気で生まれた皇子が皇位に就かれることがあったので、その時代にはそのような可能性を考えた人もいたようだ。)
そうであれば、平安時代後期以降の天皇は皇統ではなくなる。しかし、その場合、保守派の勢力は、例えば神道政治連盟は、皇室の早期廃止を求めると思うのだろうか。私はそう思えない。無理であると思うが、証拠は確実であっても、皇室への尊敬は実は万世一系にのみ基づくはずはない。
結局、「万世一系」の意味も役割もよく分からない。私であれば、血統の比重をなるべく軽減して、生きている伝統を重視するべきだと思う。歴史的なことを絶対的な基盤とすれば、将来の研究によって大きな揺れが発生する恐れがあるからだ。生きている伝統は今でも生きているのは、だれも否めないので、盤石になる。そうしたら、歴史学の発見を恐れたり否定したりすることも不要になる。一般的に、神社でそのような態度はとられているようだから、皇室についても薦めたいと思う。