1月6日付の『神社新報』に、明治神宮の境内の総合調査を発表する公開シンポジウムについての記事が載っている。この調査は、明治神宮の鎮座百周年の記念事業の一環として行われたそうだが、境内の自然状態を詳しく調べたと言う。
複数の専門分野に亘って、沢山の専門家が木々の現状はもちろん、他の植物も虫までの動物も、菌類まで調査されたようだ。50周年記念で同じような調査は行われたので、正式にこの調査を「第2次明治神宮境内総合調査」と呼ぶ。四十数年前の調査の結果と比べたら、鎮守の森の変遷が分かるが、自然林の状態に近づいてきているそうだ。そして、虫の中に東京に稀に見えない種類も、マヒマヒやムカデの新類であろうと思われる種類も見つけられたそうだ。明治神宮の宮司は、将来には第3次の調査が行われるように願っているが、また数十年を置くことになるだろう。この調査に携わった研究者は、これほど広範囲からの研究者が参加する調査は少ないと言ったので、変遷のための時間を空いてまた実現した方が効率的なのではないか。
この調査を高く評価する。調査で得た情報は、環境の変遷を把握する為に大変役に立つなのではないか。ただし、明治神宮に限れば、一般化するのは難しい。だから、他の神社で同じような調査は行ってほしい。
明治神宮の境内は広いので、時間も人材も沢山要するが、普通の神社の境内は大幅に狭いのでそれほど時間がかからないだろう。取材には一日か二日を利用して、分析には一ヶ月以内が足りるなのではないか。そして、複数の神社で行ったら、比較もできるので地理的に境内の自然環境がどう変わるかが明らかになる。
そして、調査を繰り返せば、変遷が分かる。これは大変重要だ。気候変動が見込まれる中、自然環境への影響を測るのは重要だが、神社の境内や鎮守の杜が都会の中でも自然への影響が測れる場所になるなのではないか。
もちろん、データだけでも意味をなすが、そのデータを境内の管理に活かせる。鎮守の杜の地域毎の理想的な状態を把握すれば、それを目指して手入れできるし、問題が発生すればまだ解決できる段階で対策を講じることも出来る。そして、気候変動は止められられないようになったら、それに応じて鎮守の杜を調整して、環境をなるべく保つようにできる。
このような調査や調整には神社の境内は最適なのではないかと思う。実践的な理由は二つある。まず、神社の境内の面積には制限がある場合は多いので、労力などは現実的であるからだ。そして、神社の境内に人がよく出入りするので調査のために入るのは簡単だ。それに、調査のデータの性質に関わる理由もある。それは、神社の境内は特定された自然環境ではなく、様々な場所に置かれていることだ。データの多様性は期待できる。
最後に、宗教的な理由がある。鎮守の杜には神様が宿ると信じているので、神社の自然環境を保つ義務は宮司にある。しかし、保つために知識は必要。真摯に保とうとしても、正しい方法が分からなければ結局鎮守の杜を破壊する恐れもある。神職の自然意識は当然奉仕する神社の境内から始まるが、このような調査があったらその意識が深まる。
実は、最近「市民科学者」という概念が流行ってきた。それは、特に資格を持っていない人が研究者の指導を受けて研究に貢献する活動だが、環境調査はこの活動に向いているそうだ。なぜなら、簡単な指導を受ければ、素人でもデータを集めることはできるからだ。分析は専門家に任せなければならないが、データ収集は高い壁になる研究は多い。神職や神社総代、それとも青年会がこのような活動に就いたら、長期的に神社界に大きく貢献するのではないかと思わざるを得ない。
ちなみに、同じ『神社新報』で日本の水の自然環境についての連載が始まった。筆者は専門家で、最近神職の階級を取得した方だから、適切な内容になることを期待できる。一回目は一般的な入門だったので、私のNatureなどから得た知識の範囲を殆ど出なかったが、これからの記事を楽しみにしている。この連載も、高く評価する。二回以降がブログのネタになる可能性も歓迎する。