『先代旧事本紀』

先代旧事本紀{せんだいくじほんぎ}』も『神社のいろは 要語集 宗教編』で取り上げられる神道の古代の書籍である。しかし、『古語拾遺』より葬られたそうだ。

中世までは、重視された書籍だ。序文によると、聖徳太子と蘇我馬子によって撰されたそうだから、日本の最古の歴史書として重んじられた。しかし、近世に入ると、矛盾は見つけられた。例えば、奈良時代の天皇の諡は記載されているが、もちろん聖徳太子の時代にはそのような諡はまだなかった。その結果、偽書とされ、ほぼ忘れられるようになった。本居宣長の違憲は、重要な古い伝承が入っているということだったが、それでもあまり勉強されていなかったようだ。

しかし、研究の成果で成立時代を指摘できる。『古語拾遺』を引用するので807年以降のことだ。(ただし、英語で書いた学者の説は、『古語拾遺』が『先代旧事本紀』を引用したということだから、そうならさらに古くなり得る。)そして、906年までに藤原春海が『先代旧事本紀』についての意見を述べた記録があるので、10世紀頭までに成立したのは確実だ。

つまり、『延喜式』より古い書籍だ。

もちろん、『延喜式』がより古い資料に基づいて編纂されたが、『先代旧事本紀』もうそうであるのは定説だそうだ。起記神話や『古語拾遺』も使用したが、物部氏の家伝も採用したと思われている。そして、巻第十には国造の起源が記されるし、尾張氏の系譜も詳しいそうだから、物部氏だけではなく、他の地方の豪族の家伝も採用されたと推測されている。

神話には重要な特色がある。一つは、天地開闢の話で、起記と違う神代の神系譜があるが、これは中世の伊勢神道へ重要な影響を与えたそうだ。そして、天孫降臨の段で一番の特色がある。中心になる神は、邇邇芸命ではなく、物部氏の始祖となるニギハヤヒの降臨が記される。起記では邇邇芸命と一緒に五伴緒と言われる五柱の神が天下りしたが、『先代旧事本紀』では32柱の神がニギハヤヒと一緒に天下ったそうだ。そして、「三種の神器」ではなく、「天璽瑞宝十種」がある。この中には剣や鏡、玉が含まれるが、ヒレという服装も入っている。

『延喜式』に載っている祝詞は、起記神話以外の神話を反映するとも言える。例えば、大祓詞では岩や草が喋ったということが載っている。この927年に記載された祝詞を重視すれば、『先代旧事本紀』を重視するべきなのではないか。実は、『神社のいろは 要語集 宗教編』でも「神道学上見逃せない重要な内容をもっている書といえよう」と述べる(151頁)。

それでも、日本語の現代語訳はあるものの、信頼感のある出版社ではなく、邪馬台国の謎を解こうとする方の作品だから、専門家ではない私にとって、ちょっと疑問視される。岩波文庫にはない。私はまだ読んだことはないが、英訳は存在するので、日本語訳よりその方が良かろう。『先代旧事本紀』は、誰かによって標準となり得る現代語訳で出され、手軽に入手できる文庫本も欲しいなとずっと思っている。