神職子女向けの奨学金

2月9日付けの『神社新報』には、國學院大學の神職子女向けの奨学金についての記事が載っている。返済不要の奨学金は多いし、神職子女であることだけで一年生時には40万円の奨学金を貰うそうだ。成績優秀な学生を対象とする奨学金もあるし、特に経済的な窮地に陥る学生向けの奨学金もある。記事で学生を二人取材して、奨学金の効果を讃える。

この記事が今掲載されている理由はすぐにわかる。2月だから、4月から始まる大学での勉強を決める最後のチャンスになっている。だから、高校を卒業する神職子女は、國學院大學で神道を勉強して、神職の資格を取得するかどうかを決める時期になっている。経済的な理由で辞退しないように促す趣旨は明らかである。そして、社家の経済力は大きくないことも、神社界で周知される。社家というのは、小さな神社を本務社として、複数の兼務社も支える傍ら、学校の教諭として働くことは多い。都会では、専務神職も存在するが、それでも複数の神社で神明奉仕するし、収入は高くないようだ。例外はもちろんあるが、例外である。だから、社家で生まれた若者が大学で神道を勉強するために、援助は必要であると思える。そして、神社の後継者問題は危機的であるという認識は一般的であるようだ。(統計は見たことはないが、「後継者問題」を訴える記事は『神社新報』でよく見かける。)神職子女は養成を受けられなかったら、後継者問題が深刻さを増すばかりだろう。

勉強したい人の意欲を支えるのは大変良いことだと思うので、奨学金は賛同する。

ただし、考察するべき一点がある。それは、神職子女を対象とすることだ。

私の母校は、私は現役な学生だった時代「家族基金」という奨学金があった。それは、親戚が同じカレッジに通ったことがある学生を対象とする奨学金だった。しかし、現在廃止となったようだ。なぜなら、そのような奨学金が過去に恩恵をいただいた人の子孫に福利を与えることで、社会の格差を広げるからであると思える。

國學院大學の場合はどうだろう。簡単に「同じようにするべきだ」とは言えない。まずは、私の母校はケンブリッジ大学で、卒業すれば富裕層か世界の支配層に入ると思われている。(私の招待状がまだ届いていないけれども。遅いな。)一方、神職の資格を國學院大學で取得すれば、最良の場合神社本庁総長になれるだろう。それは大きな権力ではないので、社会的な問題にならない。そして、神社の神職の職務は伝統的に世襲された。現在の神社本庁が戦前の政府の神道政策の殆どを称賛するが、神社の宮司職の踏襲性を廃止しようとした政策は数少ないの例外である。社家以外の人を禁じたら、問題であると言えるだろうが、その状況ではない。それより、数百年にわたる伝統を維持するための措置として捉えてもよかろう。そして、後継者問題が深刻になっている状況で、神社の世界が分かる人の起用は有力な対策だろう。だから、神職の家柄を持つ人の神職を目指す動きを特別に支援することは正しいと私も思う。

ところで、もう一つ気づいたことがあった。取材した学生は二人とも女性だったし、女子神職の就職は厳しいという噂にも触れた。ここでまた「女子神職を雇いなさい」という國學院大學の前から悲願が垣間見えるのではないか。


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